ネリーのおやつ

ボッサリした日常をざっくりと ブログは短くオヤツ的なスナック感溢れるカンジで

怖/い/話

前にお題で怖/い/話が出た時に、ワタシは今までで2回、ああワタシは死ぬんだ、と思った怖/い/経験をした事が強烈によみがえった。
1つは事件で、1つは事故。
お題で話すことではない、と思ったので書かなかった。
今回は事故の話。
父の病気が関わってくる話なので、苦手な方は、バックして下さい。




父は退職してからしばらく、性格が変わった。
陽気で朗らかだったのに、些細な事で怒ったりすぐに疲れて部屋に閉じこもったり。
おかしいな、とは思いつつ、時々なので環境がかわったせいかも、と様子を見ていた。
ある日、父が総入れ歯にする事になり、残っていた歯を7本1日で抜歯してきた。そして高熱を出して倒れた。相談も無かったので、もっとやりようが無かったのか聞くと「別にどうでもいいんだ」と言う。どうしちゃったの?と思っていたら、母から電話で
「お父さん、夜TVを見ていると、口をクチャクチャ言わせてるから何だろうと思って声をかけるんだけど、何にも返事しないの。しばらくすると動き出して、でもその時の事を憶えていないのよ」
それを聞いて、梗塞か意識消失発作かな、と心配になり、検査するように話した。
その矢先、父に肺がんが見つかった。
手術前の検査の段階で、先生に症状の事を話し、検査してもらったが異常なし、ホッとしたものの今度は母が、手術の日をワタシの出産の日に決めた、と言う。
初産だったので、実家に帰ろうと思っていたのだが、そういうことなら大変だから帰らないよ、と言うと、母は「こんな時だから、家に誰か居てほしいのよ」と。母の気持ちもわかるので、実家に行く事になったのだが、今度は出産が2週間も延びて、ワタシが出産を終え実家に帰ったのは、父の手術が無事終わって、もうすぐ退院、という頃だった。


父もワタシも経過は順調だったが、もう少しもう少しと言う母の言葉に甘え、結局2ヶ月以上実家に居た。
転勤も重なって、じゃあ、新しい住処を決めてから、という事もあった。
両親が出掛ける用事があり、ついでに新居候補も見て帰ろう、となったある日。
ワタシが運転するよ、と言ったのだが、新生児を連れているので、泣いたら母親が見てやりなさい、とだいぶ穏やかになった父が言ってくれて、父が運転していた。
帰り道、長い海岸道路をずっと走っていた。
助手席に座った母と、後部座席のワタシとでさっき見た新居の話をしていた所、なんだか、車のスピードがグンっと上がっている気がする。
母が「お父さん、スピードが」と声をかけるが返事がない。
あっと思って父を見ると、口をクチャクチャさせながら前を見ているが、微動だにしない。
「お父さん!お父さん!」母が悲鳴のように呼びかけるが反応がない。
ワタシも80キロになるスピードメーターを横目に、父の肩や顔を後方から叩くが反応がない。
怖くなって、隣りのチャイルドシートで寝ている娘に覆いかぶさった。
死んじゃう
そう思って目をつぶった。
「どうしよう!」母の悲鳴で我に帰った。
死ねない、
もうずいぶん時間が経った気がしたが、車はスピードを上げて走っている。
本当に幸いな事に、信号の無い、まっすぐな長い長い道路なのだ。前後に車もいない。
「お母さん!ハンドルもって!!!ハザード出して!サイドブレーキ引いて!!」
母はオロオロしながらハンドルを持つ、ワタシは後ろから身を乗り出して、ハザードをつけ、サイドブレーキを引いた。

止まらない!少し減速した気がするが、止まらない!
映画なんかでは、サイドブレーキを引いたら止まるではないか!!なんでなんでなんで!!!
ブレーキなんてとてもじゃないが届かない。
はっと見ると、依然意識の無い父は硬直して力一杯アクセルを踏んでいる。
「お母さん!!お父さんの足!足を持ってどかして!!」
硬直している人間の足はとても重い。ワタシがハンドルを持って、母が力一杯足を引き上げる。


車は、ゆっくり減速して、止まった。


後ろから何台か車が追い越して行く。


助かった。



ガクガクする足で車外へ出て、父をゆっくり引っ張った。
父は、ようやく意識が戻り「なんだ、どうしたんだ」とちょっとぼんやりしている。
「死ぬとこだったんだよ」と父に言うが、全く憶えていない。
その足で、病院に向かった。

この道路でなければ死んでいた。もしかして、誰かを巻き込んでいた。
死ななくて良かった。誰も巻き込まなくてよかった。
ワタシか母、どちらかが欠けていたら、と思うと本当に怖い。

父はてんかんだった。
既往歴も何も無い。突然なったのだ。原因もわからないが、最近中高年の男性に増えてきているそうだ。
その後、3年間病院に通ったが、何度か突然倒れた。入院もした。
もちろん運転は一切していない。お風呂も怖い、中で倒れたらと思うと、温泉なんてとても行けない。
その後ワタシが実家から帰る時に、外に出て車を見ていてくれた父が唐突にアスファルトの地面に父がバターンと後ろに倒れた。慌てて父を抱きかかえて移動させると、後頭部から血が出ている。はっと見ると、何も無いアスファルトの上に、よりに寄って父が倒れた所に拳大の石がちょこんとあった。
姉に、父がまた倒れた連絡をしながら「よりに寄って、倒れた、あ、頭の部分に、い、石があってね…」と泣いて話しながら、姉と爆笑してしまった。
泣き笑いである。
なんで、なんであそこに倒れるかなぁ、お父さん。
「あいててて」と目を覚ました父に、「お父さん、病院替えよう」と泣き笑いのまま話した。

新しい専門の科がある病院に通って4年。父は1回も発作を起こしていない。
適切な治療をしてもらっている。こんなにも違うのか、と驚いた。

何が原因かはわからない。
運転がとても上手だった父だが、許可が出ても、もう運転はしない。

でも誰にでも起こりうる、と思った後は、色々な事が本当に怖い。
おかしい時には徹底して検査を。
そして、車はサイドブレーキだけでは止まらない。
いつでも危険は本当に近くにあるのだ。